スキゾイド雑記帳

人間害悪・人間リスクについての考察。個の尊重される社会とは。

ヨネカワさんとの2年間~後編~

別館『スキゾイドパーソナリティ障害の生存競争』も更新中です。 http://schizoid.hatenablog.jp/


ホームルームは葬式のような雰囲気だった。ユウヤ君たちのこれまでのいじめ問題は誰にも否定のしようがない歴史的事実となり、それを全校生徒が書面を確認することによって把握しているのだ。もはや顔が報道された犯罪者に近く、ユウヤ君たちが前のような偉そうな顔で廊下を歩くこともできなくなった。

先生はここまでの事態になってしまったことをクラス全員に反省するよう促す。それ以外に指導の方法がわからなくなっているようだった。そのチラシをばら撒く計画を企てたのがヨネカワさんと私だということは先生もわかっていただろうが、あえてそのことを話題にしなかった。話題にしなくても、その場にいた全員が気づいていたに違いない。

放課後、私達は駅前商店街に向かった。ダイシ君も一緒に連れてきた。ヨネカワさんは普段から親に買い物を頼まれて商店街に一人で買い物に来ることが多かったようで、店主たちからも慕われていた。組合の偉い人であるナイトウさんの所へ行き、ダイシ君を紹介した。ダイシ君はとても良い子であること、そして色々あって家が貧乏だけど家族思いの優しい子であることを丁寧に伝えた。ナイトウさんはホッとしたような笑みを見せた。

実はナイトウさんをはじめここの商店街の人たちは、1年前くらいからダイシ君が暗い表情をしてユウヤ君らしき生徒たちの後をついて歩くのを見かけていた。悪ふざけなのかわからなかったが、顔をつねられたり後ろからどつかれたりしていることもあり、いじめなんじゃないかともちょっと疑っていたという。

ヨネカワさんはここまでの一連の流れをすべてナイトウさんに打ち明けた。それをもっと早くに言わなくてごめんとナイトウさんは泣きながら謝っていた。ダイシ君はそんなナイトウさんを見て恐縮してしまったものの、すぐに笑顔を取り戻していた。

ダイシ君の意思を再確認し、ヨネカワさんはユウヤ君たちの罪を周知する旨のチラシを商店街にばら撒く計画をナイトウさんに話した。ナイトウさんは困った顔をしていた。それもそうだ。当然街中でチラシを配るのには許可がいる。ヨネカワさんもそんなことはわかっていたし、ダメならすぐに引き下がる気持ちでいた。

色々と話し合った結果、街中でこんなことがありましたと各店舗にアナウンスしてその店主にチラシを渡したらどうかという提案を受けた。不特定多数にばら撒くわけではないから、それならオーケーなんじゃないかということだ。その案に従うことにした。

翌朝、ホームルームではどうしたらみんなが仲良く過ごせるかについて、あほみたいにとってつけたのような学級活動が行われた。もちろん、誰も発言などしない。そこでヨネカワさんが言った。

「この前広まったチラシですが、商店街の人にも昨日見せてきました。これ以上、危険な目に遭う人が増えないようにしようと思って。ユウヤ君や周りでいじめに加担していた人たちは、○○中学校とかを受験する人もいますよね?中学でユウヤ君たちにいじめられる人が出ないように、あらかじめ中学校にも今回のいじめ事件を教えておこうかと思うんです。」

とても爽やかな表情だった。ヨネカワさんがこんなにスカッとした表情を見せたことはなかった。

ユウヤ君を始めいじめっ子数人はさすがにキレた。「いい加減にしろ、反省してるだろ、だいたいダイシのことなのにヨネカワは関係ないだろ。バカ女」などと罵声を浴びせた。

「今のも録音してるけど?全部日本中の有名な中学、高校、大学に流そうか?あんたたちが就職するときに会社に流そうか?結婚するときに結婚相手に流そうか?」

いい加減にしなさい!!!!と教員が怒鳴った。

「どうしてあなたは彼らを許してあげることができないの?彼らは十分反省しているでしょ?それにダイシ君だってもう落ち着いているじゃない?ここまで彼らを追い込んで、これから将来もあるのに、どうして仲良くできないの」

教員は泣きそうになっていた。ヨネカワさんはまったく動じずに教員に質問する。

「では今回いじめが起きたのは誰のせいでしょうね。当事者のこのクズたちのせいもありますけど、先生もダイシ君が仲間外れにされていたのを見たことがあるはずです。あなたは見殺しにしたんですよ。ダイシ君が自殺していたらあなたは殺人犯と同じです。前に聞きましたよね。あなたの子供がダイシ君と同じ目に遭ったとして、あなたはユウヤ君たちを許せますか?手遅れになって、自殺してしまったら。助かったとしてもダイシ君は心の傷を背負ってこれから生きていくんですよ。その先のこと、あなたのきれいごとで何を救済できるんでしょうか。あなたの担当した卒業生にも、そうやって人生を滅茶苦茶にされたのに誰からも助けてもらえずに苦しんでいた人がいるはずです。学校・社会・人間なんて所詮そんなもんですよ。なぜ毎週のように自殺する人が報道されるか、先生ならわかっているでしょう?」

教員は顔面がしわくちゃになるくらい泣いていた。そして「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」と発狂してヨネカワさんを引っ叩く。ヨネカワさんはまったく動じていなかった。同じように、、、ユウヤ君たちもヨネカワさんに殴りかかる。私は止めに入ったがヨネカワさんは私の手を退けて彼らに殴られる方を選んだ。そして次の瞬間、ヨネカワさんは思いっきり先生とユウヤ君たちいじめっ子の頬を片っ端から引っ叩いた。

「私はユウヤ君たちが本当にいじめを反省しているのなら、死んで詫びてほしいと思っています。ダイシ君はそれだけ傷ついたのだから。他人の人生に取り返しのつかないダメージを与えたことを自覚するべきだと思います。ユウヤ君たちも、先生も。だから彼らの保護者に対してもこの事実を伝えたんですよ私は。」

この様子を撮影するように私は言われていたので、一秒の漏れもなく記録した。

「ユウヤ君たちはダイシ君に死ねって言いましたよね。だったらお手本を見せてあげたらいいんじゃないの?」

そういってヨネカワさんはカッターナイフをユウヤ君に渡した。

「さあ、早く。死ねってどういうこと?私に教えてよ。」

教員は顔面をしわくちゃにして「もうやめなざああぃぃぃぃ…ゆるぢてあげなざあぁぁぃぃぃ…」と泣き崩れた。

ユウヤ君も赤ん坊のようにとんでもない勢いで泣きわめき「なんでゆるぢてくれないんだぅあああああああああああああああああああああああ」と叫んでいた。明らかに精神異常者の様相を呈していた。

「死ぬ勇気もないくせに他人に気軽に死ねっていうやつ、自分たちが仲良くする気もないくせにみんなで仲良くしなさいというオトナ。そんなのばっかりね」

ヨネカワさんは教室を去っていった。

年が明け、ダイシ君は親の転勤の都合で引っ越していった。最終日、私とヨネカワさんを訪ねてきて、三人であの商店街に行き、たい焼きを食べた。あつあつのたい焼きは美味しかった。

 


12年後、携帯に知らない番号から電話がかかってきた。当時の担任教師だった。ユウヤ君たちが海で遊んでいて溺死したらしかった。どうやら中学以降も当時のいじめっ子グループは付き合いがあったらしい。

通夜の日時を告げられた。ヨネカワさんの連絡先が分からないから教えてほしいといわれたが、私もヨネカワさんの連絡先を知らなかった。ダイシ君は卒業時点で転校していたので特に声掛けはされていないようだった。思い出さない方が良いだろうと思った。

ヨネカワさんは今どうしているのだろう。中学受験でお互い別々の学校に進んでから、連絡を取ることも会うことも偶然にもなかった。きっとあれからもどこかでいじめられている子を助けて仲良くなって一緒にたい焼きを食べて笑っているんだろうなと勝手に思う。そう思いたいから、そう思うことにしておく。

 

ヨネカワさんはユウヤ君を決して許さなかった。ユウヤ君とその取り巻きがいじめの罪を死を持って償うことだけが、ヨネカワさんにとって納得のいく結末だったのだろう。なぜそんなにヨネカワさんが加害者を憎んでいたのか、今でもわからない。

わからなくてもいいやと今では思う。そんなヨネカワさんとの小学生後半の2年間、遠い昔の話になってしまったけれど、自分の人生の中ではかなりインパクトのある出会いだった。