スキゾイド雑記帳

人間害悪・人間リスクについての考察

息を止めた街

別館『スキゾイドパーソナリティ障害の生存競争』も更新中です。 http://schizoid.hatenablog.jp/


ある地域で重大な問題が起こっていると聞き、視察に向かう。重大な問題の内容というのは、どうやら暴走運転を行う者がいて重大な交通災害をもたらしているというものだった。

目的地に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。人の気配はなく、あらゆる建物に頑丈なゲートが設けられており、鉄柵により中を確認することが難しい。

無機質な佇まいを見せる数件の一戸建てを横目に少し歩くと、明らかに周囲と異なる様相の建物が見えてくる。それは家というよりも監獄のような閉鎖空間、要塞のような空間といってよいだろう。

門の中央に大きな写真が貼付けてある。15歳前後の少年だろうか。モノクロで、笑顔のない写真。門いっぱいに貼付けてある。明らかに不自然な建物だ。

守衛なのか不確かだが、警備員らしき人物が簡易事務所の中から顔を見せていたため、この建物のことを聞いてみる。聞いてみたところ、この少年は先天的に自らの行動を制御できない病を患っており、それが精神疾患なのか身体疾患なのかはわからないようだ。それが原因で車を暴走し何人もの人間を犠牲にした。

それゆえ、今では特別保護措置として地域から隔離され、人間制御学の実験に従事させられているとのことである。詳しいことを聞きたければ近くの自動車工場へ行くように促される。そこにいけば、その少年の過去やこの町がなぜここまで荒廃しているかがわかるというのだ。

自動車工場へと急ぐ。途中、すれ違う人に道を尋ねるも、周囲に自動車工場などないという。後からわかったのだが、自動車工場ではなくガソリンスタンドのようだ。

守衛が勘違いしていたらしい。守衛が以前に勤務していた地域に自動車工場があったことから記憶が曖昧になっていると、通行人から聞いた。約20分でガソリンスタンドに到着した。なぜか車が6台整列しており、給油施設は見つからない。中で働く人も見られない。いったい何なのだろうか。

倉庫から1人の男性が出てくる。じっくりと説明をしようと思ったにも関わらず、同行者がいきなり強い口調でその男性に問い詰める。

「この地域の精神障害者の人が車を暴走させて地域が迷惑しているという話を聞いているんですけど、どういうことなんですか!?」

こんな喧嘩腰でしかも初対面の人間に強く迫ったら、どう考えても良い意思疎通が出来ないに決まっている。普段は冷静なこの同行者が、精神障害者などと、見ず知らずの人間を蔑視する姿を、私は今まで見たことがなかった。

私は同行者の行動に呆れ、何となく嫌な予感を覚えた。その嫌な予感は的中した。静寂につつまれていた幹線道路に突如自動車が大挙する。クラクションを鳴らしたり荒い運転をする車も目立つ。

もともとこの地域は荒れているのだろうか。そんな嫌な気分に苛まれながら呆然としていると、遠くから人が走ってくるのが見える。

例の少年という人物が物凄い形相でこちらを見ながら迫ってくる。保護施設から脱走したのかもしれない。そして私と同行者、オーナーらしき男性に怒鳴りつけるように話す。

「どうせ俺は頭がおかしいよ!住民に迷惑をかけているし、世の中にも社会にも迷惑をかけている!けれども俺は、お前らや社会を憎んでいる!俺を憎め!」

叫ぶようにそういいながら、少年は整列する6台のうち最も古そうなスポーツカーに乗り込み、アクセルを全開にして車を発進させた。本当なら周りの車にぶつかるはずなのに、ガソリンスタンドから出るときにはなぜかその車の大きさが曲線的に縮小して周りの車を避けている。

少年の運転する車は猛スピードで国道に飛び出した。40キロ制限の道路だが120キロは出ているだろう。どうしようもない結末になったことに絶望と恐怖と気持ち悪さを感じつつも、それを見ているしかなかった。

これからこの少年が暴走する車が多くの犠牲者を出すのだろう、などと次々と嫌な予感がよぎる。視察とはなんのためだったのか、こんな無意味な視察は終わりにしたい。形だけの労働、形だけの聞き取り、すべてが無碍に感じられた。

十数秒後、遠くの交差点の方角から、衝撃音が鳴り響いた。腕時計を見ると、午前4時40分だった。